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お菓子を中心にした美味いもん&海外旅行日記サイト


by KinichiM
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わたしを離さないで

カズオ・イシグロの名作です。

自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムが物語の冒頭から繰り返し出てくる。共に青春 の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。読み進んでいくと、「介護人」というのがただの病院での看護師や介護士を意味するのではなく、「提供者」というワードが持つ意味のうすら寒さを実証していく・・・。

あくまでも淡々とヘーシャルムでの回想が続き、外の世界の住人である私たち読者が「?」と感じる部分が一枚一枚皮をむくように解き明かされてゆく。しかし、外側の世界から見ると異質な彼女たちの世界も、住人である彼女たちにとっては誰もが持つ青春の日々であり、輝きであり、思い出である。それらが瑞々しい描写で描かれている。
臓器提供をするためだけに生まれた存在-クローン人間として生まれ落ち、命を持って産まれて生きているのに逃げようともせず「使命を終える」運命を享受する姿を淡々とつづっている。
どうして逃げないの?と思うが、事実「臓器提供クローン」が現実化した場合は、本人たちをこのような環境において教育し、「逃げない」世界観を作り上げるのだろう。登場人物たちのヘーシャルムでの日々や感情が外界となんら変わりないだけにうすら寒い。

すでに実験段階では成功しているクローン実験が、非難されていることの理由を本当の意味で分かった・・というより感じた。

英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作『日の名残り』を凌駕すると評されたイシグロ文学の最高到達点 といわれる作品。本当に胸にしんしんと沁みます。
by KinichiM | 2007-07-29 23:38 |